【メモ】損保の事故受付フロー
要旨
損害保険(自動車・火災・賠償など)の事故受付は、生命保険の「給付金請求」と比べ、受付直後から初動対応・損害調査・示談/合意形成まで含むことが多く、FNOL(First Notice of Loss)時点の情報の質が、その後の所要日数や手戻りに直結します。一般的な請求手続きの流れとして、事故連絡→必要書類→保険会社の確認→支払い、という段取りが示されています。1
本稿は、Web申告(マイページ/アプリ/フォーム)を前提に、保険会社目線で次の3点を整理します。
- 事故受付直後の共通処理(案件化・契約確認・次アクション)
- 事故受付の主要7パターンと分岐
- 正常フロー/不備フロー/夜間バッチの役割分担
1. まず前提:損保の「事故受付」で保険会社が最初にやること
事故受付直後に、保険会社側で共通して行われるのは次の3つです。
- 案件化(事故受付番号の採番、担当付け、優先度付け)
- 契約・補償の一次確認(対象契約か、補償の枠組みは何か)
- 次アクションの確定(初動が必要か/調査へ回すか/書類待ちか)
また、業界の支払に関するガイドラインでも、事故受付後に請求が顕在化していない場合の「請求意思確認」や、長期事案の管理、支払備金(見込支払)管理など、事故受付後の継続管理が論点として扱われています。2
2. 事故受付パターン(Web申告)と、その後の分岐点
事故受付は「何が起きたか」だけでなく、「誰が」「いつ」「どのチャネルで」知らせるかで内部フローが変わります。ここでは保険会社の運用に影響が大きいパターンを7つに分けます。
パターン1:自動車事故(相手あり・物損のみ)
典型入力:
- 事故日時・場所、相手情報、双方車両情報、損傷写真、走行可否、修理工場希望
保険会社側フロー(正常):
- 受付→案件起票(優先度:通常)
- 初動:連絡体制の確立(当事者・修理先)
- 損害調査(修理見積、損傷確認)
- 過失割合や支払範囲の整理
- 支払額確定→支払手続き
ポイント:
- 物損のみは、対人に比べ「治療経過の追跡」が少なく、見積・写真・修理内容が主戦場になる。
パターン2:自動車事故(人身あり)
典型入力:
- 負傷有無、受診先、救急搬送、診断書の有無、警察届出状況
保険会社側フロー(正常):
- 受付→案件起票(優先度:高になりやすい)
- 初動:治療状況確認、相手方連絡、対人対応方針
- 経過管理(治療継続・通院、必要書類の収集)
- 示談/合意形成(または支払決定)
- 支払
注意点(受付段階で強く影響):
- 交通事故では、警察等の届出や証明が請求上重要になる旨が一般向けに注意喚起されています。1
パターン3:ロードサービス・緊急対応を伴う事故(自動車)
典型入力:
- 自走不可、レッカー要否、現在地、同乗者の安全確保
保険会社側フロー(正常):
ポイント:
- 受付時点で「支払可否」より先に、緊急手配(サービス提供)が走ることがある。
- 後から書類・見積・過失整理が追いつく設計になりやすい。
パターン4:火災・風水害などの住まいの事故(火災保険)
典型入力:
- 事故種別(火災、落雷、風災、水濡れ 等)、発生日、被害箇所、写真、応急措置の有無
保険会社側フロー(正常):
- 受付→案件起票
- 初動:被害拡大防止の助言(応急措置)と証跡確保(写真等)
- 損害調査(現地調査が入る場合あり)
- 見積・復旧費用の確認
- 支払額確定→支払
火災保険の請求は、契約内容の確認と、必要書類を揃えることで支払いまで進むという説明が一般向けに整理されています。5
パターン5:盗難・破損(自動車・家財・携行品など)
典型入力:
- 発見日時、最後に確認した時刻、盗難届出状況、被害品リスト、購入証跡の有無
保険会社側フロー(正常):
- 受付→案件起票
- 事実確認(届出情報、状況の整合性)
- 被害品の特定(型番、購入時期、価格、写真)
- 支払判断→支払
ポイント:
- 受付情報が曖昧だと、被害品確定が遅れて支払が遅延しやすい。
パターン6:賠償事故(他人の身体・財物に損害)
典型入力:
- 事故状況、相手方連絡先、損害内容、第三者資料(請求書、見積、診断書等)
保険会社側フロー(正常):
- 受付→案件起票
- 初動:相手方対応(窓口化)、争点整理
- 事故状況確認(過失・責任の有無)
- 合意形成(示談)または支払決定
- 支払
ポイント:
- 「自分の損害」よりも、相手方との調整(合意)が支払の前提になりやすい。
パターン7:大規模災害(台風・地震など)で受付が集中
典型入力:
- 災害名・被災日時、被害箇所、写真、復旧の緊急度
保険会社側フロー(正常):
- 受付の大量流入→自動トリアージ(被害類型・地域・緊急度)
- 調査枠の配分(現地調査の要否判定)
- 可能な案件から順次支払
ポイント:
- 件数の波が大きく、通常より「調査リソース」「締め・支払処理」の負荷が跳ね上がる。
- ここで夜間バッチ(後述)の安定性が効いてくる。
3. 正常フロー(Web受付→支払)を1本にまとめる
パターン差はあっても、支払までの骨格は共通します。
- Web受付(事故受付番号採番、案件起票)
- 形式チェック(入力必須・添付・画像判読・基本整合)
- 初動対応(必要なパターンのみ:レッカー、修理先、相手方窓口化 等)
- 損害調査(見積、写真、必要書類、現地調査、責任関係)
- 支払判断(補償該当性、免責、限度、重複、合意の要否)
- 支払確定(承認、支払データ生成)
- 支払実行(振込・支払通知)
一般向けにも、事故連絡から保険金受領までの一般的な流れが示されています。1
4. 不備フロー(受付情報・添付の不足)をどう回すか
損保の不備は「請求書の不足」だけでなく、事故受付情報の不足(事実関係が決まらない)も含みます。ここが生命保険より手戻りになりやすい点です。
不備の代表例(Web受付で多い)
- 写真が不足/判読不能(損傷部位が不明、距離感が分からない)
- 見積がない(または対象範囲が不明)
- 相手方情報が欠けている(賠償・対人で致命的)
- 届出情報がない(盗難・交通事故などで証明が必要になることがある)1
- 事故日・発生日の記載が曖昧(免責期間や補償期間の判断に影響)
保険会社側の処理(不備フロー)
- 形式不備の検知(自動ルール+オペレータ確認)
- 不備分類
- 追完(追加アップロードで足りる)
- 聴取(電話/チャットで状況確認が必要)
- 調査(外部確認や現地調査が必要)
- 不備通知(Webポータル通知+メール等)
- 保留(不備待ち)キューで期限管理
- 追完後に再チェック→調査/判断へ復帰
業界ガイドラインでも、事故受付後の連絡や進捗管理、長期化案件の点検など、事案管理の重要性が触れられています。2
5. 夜間バッチは損保で何をしているのか
夜間バッチは、日中に更新された案件情報をまとめて「締め」「連携」「会計」「支払データ整備」へ回す役割を担います。保険金支払の所要日数短縮を狙い、文書処理やルール判定(例:AI-OCRや業務ルール)を組み合わせる事例も語られています。6
典型的な夜間バッチ処理
- データ整合(受付情報・添付メタデータ・契約マスタ突合)
- 例外抽出(高額、重複、要調査フラグ、長期化フラグ)
- 支払備金(見込支払)の更新と管理用帳票作成(運用は会社差が大きいが論点として重要)2
- 支払データ締め(当日確定分のロック)
- 振込データ生成、会計計上、通知データ生成
6. まとめ表:事故受付パターンごとの「初動」と「後続」の違い
| パターン | 初動が重い | 調査の主戦場 | 合意が支払の前提になりやすい |
|---|---|---|---|
| 自動車(物損) | 低〜中 | 見積・損傷確認・過失 | 中 |
| 自動車(人身) | 高 | 治療経過・書類・示談 | 高 |
| 緊急対応(ロードサービス) | 高 | 後追いで見積・責任整理 | 中 |
| 住まい(火災・風水害) | 中 | 現地/写真・見積・復旧範囲 | 低〜中 |
| 盗難 | 中 | 届出・被害品確定・証跡 | 低〜中 |
| 賠償 | 中〜高 | 責任関係・相手方資料・示談 | 高 |
| 大規模災害 | 中〜高(件数で増大) | トリアージ・調査枠配分 | 低〜中 |
まとめ
- FNOL時点の情報品質が、初動・調査・支払までの所要日数に直結する
- 事故類型によって、初動の重さと合意形成の比重が大きく変わる
- 不備フローと夜間バッチは、運用負荷と処理速度のボトルネックになりやすい